『火喰い鳥を、喰う』原浩 著

恐れおののく

信州で暮らす久喜雄司に起きた2つの異変。

久喜家の墓石から太平洋戦争末期に戦死した大伯父・貞市の名が削り取られ、同時期に彼の日記が死没地から届いた。
貞市の生への執念が綴られた日記を読んだ日を境に、雄司の周辺で怪異が起こり始める。

祖父の失踪、日記の最後の頁に足された「ヒクイドリヲ クウ ビミ ナリ」の文字列。
これらは死者が引き起こしたものなのか?

お前の死は私の生

まただ。またいつもの夢。
私は自分の身体が夢境の泥沼にあるのを認識している。
夢から覚醒しようともがくが、下肢は粘液に囚われて思うようにならない。
叫ぼうにも縫い付けられた唇は開かない。
海底を這うようにもどかしく歩を進める。

お前の死は私の生

再び、冷淡な声が告げる。
誰が何故そんなことを言うのだろうか?

私は自らを取り巻く暗黒に目を凝らす。
声の主の姿はどこにも見えない。
しかし私は確信していた。
そいつは、とても近くにいる。
そして、同時に遠いのだ。

夢魔だ。

重なり合っていても、現実に邂逅することは無い。

本作は、怪異とヒトコワが織り交ざったホラー作品です。

とうの昔に亡くなっているはずの大伯父・貞市ですが、日記に綴られた生への執念のおぞましさは、活字からもひしひしと伝わってきます。

戦地で”喰った”とされる、日記に記された「ヒクイドリ」とは、いったい何なのか?

おススメポイントは、作中における、耐え難い怪異と向き合う雄司たちの、恐怖の描写でしょう。

第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞受賞作だけあって、読み応えがありました。

刺激的な夏の夜を求めている方、ぜひとも一読してみてはいかがでしょうか。

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