『命売ります』三島由紀夫 著

目覚めたのは病院だった。

まだ生きていた。

「命売ります。お好きな目的にお使いください。当方、27歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません」
必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ……。

危険な目に合ううちに恐怖の念におそわれた。

死にたくないー。

三島由紀夫の考える命とは?

”自殺しそこなった男が辿る、命の意味をめぐる旅”

自殺に失敗した羽二男。

将来を悲観し、命を投げうるように広告を出したところ、思いのほか声がかかります。
理解しがたい体験を繰り返すうちに芽生えた”死にたくない”という気持ち。

三島由紀夫作品の中でも、比較的読みやすく、ユーモアに富んだ世界観。
少しも読みにくさは感じず、展開を求めての一気読みでした。

三島作品を手に取るか迷っている方、手始めに一読してみてはいかがでしょうか。

おすすめポイント

立て続けに起こる理解しがたい要求と、それに伴う羽二男の心境の変化

……羽二男は、目を覚まして、まわりがひどく明るいので、天国にいるのかと思った。
しかし、後頭部にきつい頭痛が残っている。
天国で頭痛がするわけはあるまい。

まず見えたのは、磨ガラスの大きな窓だった。
何も飾りのない窓で、あたりがむやみに白っぽい。

「気が付いたようですよ」
と誰かが言った。
「まあ、これでよかった。人助けをしたと思うと、一日気分がいいですよ」
羽二男は目をあげた。
看護婦と、一人の消防隊の制服を着たずんぐりした男が立っている。

「そのまま、そのまま。まだ乱暴に体を動かしちゃいけません」
と看護婦が彼の肩先を押えた。

羽二男は自分が自殺に失敗したのを知った。

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