『コンジュジ』木崎みつ子 著

涙がこぼれる

1993年9月2日未明、11歳のせれなは恋に落ちた。
テレビ番組で偶然見かけた伝説のロックスター・リアンに。

母に捨てられ、父から性虐待を受けているせれなにとって、その愛しい人は唯一の生きる理由となった。

彼女は苦しみのたび、リアンとの妄想世界にトランスする。

甘美な夢と凄惨な現実。

その境界線は次第に曖昧になっていき―。

第44回 すばる文学賞受賞作

せれながリアンに恋をしたのは、もう20年も前のことだ。
せれなは現在31歳、リアンは生きていれば62歳になる。

リアンのフルネームはトーマス・リアン・ノートン。
1951年2月5日生まれのイギリス人で「The Cups(ザ・カップス)」という4人組のバンドのメインボーカルを努めていた。
端正な顔立ちと卓越した歌唱力、類まれなるメロディーセンスで多くの聴衆を魅了し、最も偉大なアーティストの1人としても名を残している。

リアンとは正式な知り合いではない。
せれなは彼のようにミュージシャンではないし、ライブも1度も観に行ったことはない。
後追い世代なので、恋に落ちてしまったとき彼はすでにこの世にはいなかったのだ。

リアンは1983年にスペインで悲運の死を遂げて伝説となった。
人によっては彼のことを神のように崇めているが、せれなはそこまではしない。
人々が信じたがるような神秘性を取り除くと、彼もせれなと同じ人間だったからだ。

父はせれなが17歳のときに死んだ。
父の命日が近づくと、10代の頃の忌まわしい記憶がよみがえってくる。
それは行列やノルマのように終わりがなく、自分でコントロールできない。

だから今夜リアンの元へ行く。
そのために高い金を出してバラの花束を買ってきたのだ。
せっかく彼に会えるのだから、手ぶらでは申し訳ない。

本作は生きる希望をなくした少女が、推しを心の支えにして救いを求める作品で、優しい文体と重たい内容のギャップに引き込まれました。

なぜだか書店でひとめぼれした作品。

悲惨な境遇のせれなが見つけた、”リアンとの妄想”というたったひとつだけの生きる歓び

だけど、現実逃避したところで現実世界の苦しみが消えるわけではないのですが、もしかしたらせれなはそのことに気づいていたのでしょうか?

おすすめポイントは、物語の結末、救いがなかったと受け取るか、救われたと受け取るか、読み手で受取り方がわかれるのではないかという点でしょう

救いを求めるかたちは人それぞれですが、私は救われたと信じたいです。

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