『雪国』川端康成 著

親譲りの財産で、無為徒食の生活をしている島村は、雪深い温泉町で芸者駒子と出会う。

島村は許婚者の療養費を作るために芸者になったという、駒子の一途な生き方に惹かれながらも、ゆきずりの愛以上のつながりを持とうとしない。

”国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。”

冷たいほどにすんだ島村の心の鏡に映される駒子の烈しい情熱を、悲しくも美しく描く、川端康成の美質が完全な開花を見せた不朽の名作。

感想

本作は言わずとしれた、川端文学の不朽の名作です。
自由気ままに暮らしている島村が、雪深い温泉宿で出会った芸者の駒子。

喜怒哀楽の感情表現がはっきりしていて、どこまでも純真無垢な駒子の一途さは、読み進めていくほどかわいらしくて仕方ないです。
一方の島村はというと、旅先での人間関係になるべく深入りしないように、のらりくらり。
終始つかみどころがなくて、自由奔放さが十分なくらいに伝わってきます。

どうにかして島村の気を引こうと、あの手この手で押したり引いたりする駒子。
駒子のことが気になって、思わせぶりな態度を取りつつもはっきりと要領を得ない島村。

読み勧めていくうちに、島村が嫌いになりそう。。。でした。

川端康成の魅力を探りたい方、駒子の純粋無垢な姿が気になる方、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

おすすめポイント

作品の冒頭(抜粋)

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
夜の底が白くなった。
信号所に汽車が止まった。

向側の座席から娘が立ってきて、島村の前のガラス窓を落した。
雪の冷気が流れ込んだ。
娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
「駅長さあん、駅長さあん。」

明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包見、耳に帽子の毛皮を垂れていた。

もうそんな寒さかと島村は外を眺めると、鉄道の官舎らしいバラックが山裾に寒々と散らばっているだけで、雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。

「駅長さん、私です。御機嫌よろしゅうございます。」

「ああ、葉子さんじゃないか。お帰りかい。また寒くなったよ。」

「弟がこちらに勤めさせていただいておりますのですってね。お世話さまですわ。」

「こんなところ、今に寂しくて参るだろうよ。若いのに可哀想だな。」

「ほんの子供ですから、駅長さんからよく教えてやっていただいて、よろしくお願いいたしますわ。」

「よろしい。元気で働いてるよ。これからいそがしくなる。去年は大雪だったよ。よく雪崩てね、汽車が立往生するんで、村も焚出しがいそがしかったよ。」

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