『群青の夜の羽毛布』山本文緒 著

24歳になっても、さとるの門限は夜10時だ。
学校教師の母には逆らえない。

スーパーで知り合った大学生・鉄男と付き合い始めても、さとるは母を怖れていた。

屈託のない笑顔、女性に不自由したことのない鉄男は、少し神経質なさとるに夢中だった。

だが、さとるは次第に追い詰められていく。

家族が恋を、踏みつける。
このまま一生、私はこの家で母と暮らすのだろうか。

さとるの家で鉄男が見たものは。

”家族っていったい何でしょうね、先生。”
”たまたま血が繋がっているだけで、どうしていっしょに暮らしているんでしょう。”

少女の恋を通して描かれる、ある不器用な家族の物語。

本作は家族の在り方を問う作品でしたが、読みやすく伏線の回収もお見事でした。

確かに、家族というものはそばに居てくれる、とても心強い存在です。
でももし歪んだり壊れたりしたとき、そばに居ることで、それは耐え難い存在になります。

「心強い存在」と「耐え難い存在」は表裏一体。
いついかなるきっかけで、それが入れ替わるのか、それはだれにもわかりません。

家族だから支えたい、守りたいという願い。
家族なのに分かり会えない哀しみ。

ネタバレ避けるので詳細は書きませんが、さとるはホントは何もかも気づいていたのでしょう。
この結末が正解であると、個人的には思いたい。

家族のありかたに悩んでいる方、一歩踏み出す勇気が欲しい方、ぜひ、一読してみてはいかがでしょうか。

おすすめポイント

母親に支配されながら、わかりあおうと必死にもがき苦しむさとるが、鉄男という存在を手にしたことで、強く踏み出す瞬間

先生、こんばんは。
どうぞどうぞ、座って下さい。
今日は少し肌寒いですね。
もう十月も半ばですから。
ぼんやりしていると、一年なんてあっという間にたってしまいますね。

おなかは空いていないですか?
ああ、そうでしたね。
先生はいつも夕飯は済ませて来るんでしたよね。
はい、わたしももういただきました。
今日はおでんでした。
風が冷たくなってくると、おでんが食べたくなって……え?
先生もそうだったんですか。
気があいますねえ。
でも、今日みたいに急に冷えると、夕飯におでんを作った家が多いんでしょうね。

ああ、そうですか。
先生はちくわぶが好きですか。
変なものが好きですね。

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