『破船』吉村昭 著

心をととのえる

二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。
しかし、積荷はほとんどなく、中の者たちはすべて死に絶えていた。

骸が着けていた揃いの赤い服を分配後まもなく、村を恐ろしい出来事が襲う……。

嵐の夜、浜で火を焚き、近づく船を座礁させ、その積荷を奪い取るー

僻地の貧しい漁村に伝わる、サバイバルのための異様な風習 ”お船様”
難破船が招いた、悪夢のような災厄。

波打ち際に、古びた菅笠が所々に動いている。
岩礁のつづく遠い岸に砕けた波の飛沫があがると、次々に飛沫が近づき、伊作の立つ岸の海水もにわかにふくれ上がって、岩に激突すると散った。

雨はかなりの降りで、海面は白く煙っている。
笠の破れ目から波しぶきのまじった雨水が流れ落ちていた。
岩礁のつらなる海岸に、わずかばかりの砂浜があり、そこにも笠が動き、岸に寄せられた木片が集められている。

伊作は、波がひくのを待って海水に足をふみ入れると、岩の間にはさまった流木をつかんだ。
破船した船の材にちがいなく、ゆるく弧をえがいていて釘穴らしいくぼみもある。
九歳のかれの力には余るものだったが、足を岩角にふんばって引くと材が岩の間から少しはなれた。

かれは、波頭が水しぶきを散らしながら近づくのを眼にして、岸に急いだ。
背後で波の砕ける音がし、海水が笠を音高くたたいて降りかかってきた。
波がひきはじめると、泡立つ海水の中にふみ込み流木に手をかけた。

表紙からも伝わる漁村の過酷な環境。

父のかわりに必死にがんばる伊作は、幼なじみにさんま獲りを教わり、かわいい娘にひそかに想いを寄せ、毎日を全力で生きます。

だけど”お船様”が来てから村は……

オススメポイントは、生きるためならば、人はどこまで赦されるのか、悪事を働くくらいなら死んだ方が良いのか、考えさせられる複雑な展ストーリー全体でしょう。

過酷な環境だからやむを得ないのか。
生きるためならば悪事を働いても良いのか。
悪事を働くくらいなら死ぬ方が良いのか。

ヌルい生活をしてる自分には、正解を選ぶ権利はないと思いました。。。

生きることの意味をもういちど考えたいと思っている方、ぜひ、一読してみてはいかがでしょうか。

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