『きりこについて』西加奈子 著

優しく寄り添う

小学校の体育館裏で、きりこが見つけた黒猫ラムセス2世はとても賢くて、大きくなるにつれて人の言葉を覚えていった。

両親の愛情を浴びて育ったきりこだったけれど、5年生の時、好きな男の子に「ぶす」と言われ、強いショックを受ける。

悩んで引きこもる日々。

やがて、きりこはラムセス2世に励まされ、外に出る決心をする。

きりこが見つけた世の中でいちばん大切なこととは?

きりこはぶすである。

誰かを、ぶす、と感じるのは人それぞれ、千差万別だから、こう、のっけから「ぶすだ」と断定するのは早急だし、きけん!なことかもしれない。
でも、例えば100人の日本人、働き盛りの男の人、若いお母さん、やんちゃな小学生、照れ屋の中学生、大人ぶる高校生、年老いたジャズプレーヤー、フランスかぶれの女の人、メタボリックな社長、詐欺で身を立てている女、とにかくランダムに、出来るだけまばらに、色んな人を集めて、その人たち皆にきりこを見てもらい、「どうか正直に言ってほしい」とお願いしたら、きっと97人、いや98人、もうちょっと頑張って99人、こうなったらやけくそで100人!は「ぶすである」と、言うだろう。

かといって、それも予測であるし、統計を取ったとして、皆が本当に心から正直なことを言うかも、分からないし、いくらランダムに、といっても、これだけたくさんの人がいる国のこと、100人を集めたところで、「これが皆の意見です」というのはやはり早急で、危険である。
でもやはり、その危険を考慮に入れ、早急であると訴えられても、きりこはぶす、である。

顔の輪郭は、空気を抜く途中の浮き輪のように、ぶわぶわと頼りなく、眉毛は、まるで間違いを消した鉛筆の跡だ。
がちゃがちゃと、太い、その下にある目は「犬」とか「代」などの感じの右上の点のようで、それが左右対称についている。
鼻は、大きく右にひしゃげていて、アフリカ大陸をひっくり返したようである。
唇だけは思い出したように赤く、つやつやと光っているが、アラビア文字のように難解に生えている乳歯が抜けた後、また同じように難解な並び方で永久歯が生えてきている。
顎はない。
ないというか、そのままなだらかに首(首もないのであるが。後述)とつながっていて、どこにあるのか、探そうにも、探せない。
耳は、ゆであがったパスタのようにつるんとしており、黒髪は豊かで、ほとんど青いほど、でも、いかんせん顔の印象に引っ張られて、行き場をなくし、どこか自信なさげに、頭に喰らいついているという、按配。

本作は両親の愛情たっぷりに育ったピュアなきりこが、きりこの愛情たっぷりに育った猫のラムセス2世と、いろんな体験をとおして、大切なことを見つけ出すという、とてもあたたかい作品です。

かわいい表紙とかわいい設定で、軽い気持ちで読み始めた1冊でしたが、とにかくめちゃんこ深かったです。

“ぶす”という概念に振り回されるきりこ。
かわいいと信じてたのに、初恋相手からの”ぶす”認定で奈落の底に落ちます。

おすすめポイントは、どん底まで落ち込んだきりこが、人の痛みを知り、大人たちの歪な声を聴き、大切なことに気付いて立ち上がるところでしょう。
軽い気持ちで読んだせいで、富みながら涙が止まりませんでした。

作中でキーパーソン?となるのがラムセス2世!
猫はとても賢く、猫界のネットワークはとても広いこともわかりました!

西加奈子さんの作品の中でも読みやすい本作、子供心を忘れてしまった方、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

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