✐あらすじ
24歳になっても、さとるの門限は夜10時だ。
学校教師の母には逆らえない。
スーパーで知り合った大学生・鉄男と付き合い始めても、さとるは母を怖れていた。
屈託のない笑顔、女性に不自由したことのない鉄男は、少し神経質なさとるに夢中だった。
だが、さとるは次第に追い詰められていく。
家族が恋を、踏みつける。
このまま一生、私はこの家で母と暮らすのだろうか。
さとるの家で鉄男が見たものは。
✐はじまり
先生、こんばんは。
どうぞどうぞ、座って下さい。
今日は少し肌寒いですね。
もう十月も半ばですから。
ぼんやりしていると、一年なんてあっという間にたってしまいますね。
おなかは空いていないですか?
ああ、そうでしたね。
先生はいつも夕飯は済ませて来るんでしたよね。
はい、わたしももういただきました。
今日はおでんでした。
風が冷たくなってくると、おでんが食べたくなって……え?
先生もそうだったんですか。
気があいますねえ。
でも、今日みたいに急に冷えると、夕飯におでんを作った家が多いんでしょうね。
ああ、そうですか。
先生はちくわぶが好きですか。
変なものが好きですね。
✐さいごに
本作は家族の在り方を問う作品でしたが、読みやすく伏線の回収もお見事でした。
確かに、家族というものはそばに居てくれる、とても心強い存在です。
でももし歪んだり壊れたりしたとき、そばに居ることで、それは耐え難い存在になります。
「心強い存在」と「耐え難い存在」は表裏一体。
いついかなるきっかけで、それが入れ替わるのか、それはだれにもわかりません。
家族だから支えたい、守りたいという願い。
家族なのに分かり会えない哀しみ。
おすすめポイントは、母親に支配されているさとるが、わかりあおうと必死にもがき苦しんできた中で、鉄男という存在を手にしたことで、強く踏み出す瞬間でしょう。
ネタバレ避けるので詳細は書きませんが、さとるはホントは何もかも気づいていたのでしょう。
この結末が正解であると、個人的には思いたい。
家族のありかたに悩んでいる方、一歩踏み出す勇気が欲しい方、ぜひ、一読してみてはいかがでしょうか。