『不在』彩瀬まる 著

優しく寄り添う

父の死をきっかけに実家の洋館を相続した明日香。
24年ぶりの実家は懐かしくも忌まわしい品で溢れていた。

遺品を整理しながら彼女は、家族への複雑な思いと父から必要とされなかった事実に気づかされる。

やがて好調だった仕事はうまくいかなくなり、恋人との関係も壊れ始めるが……。

「辛いことを生き延びた先で、すごくきれいな景色を見られるよ」-

この世界のどこかにあると誰もが信じている「愛」のその先を描く物語。

私はいったい誰なんだろう。
次々と差し出されるページに架空の名前を書き込みながら、ふと、頭の中が真っ白になった。
自分の名前や、女だとか娘だとか、そういう役割を理解する前の、ただのころんとした魂だった時代のふわつきを思い出す、心もとなくて広がるのある感覚。
確かな記憶はもちろんないのだけれど、そんな状態があったことは知っているような。

唐突な浮遊感は、サインを終える頃には流れ去っていた。
今日は来てくれてありがとう、と笑顔を添えて、わざわざ他県から来てくれたというショートカットの女の子に単行本を差し出す。
女の子は頬をほんのりと赤くして、うつむきがちに机を離れていった。
若いうなじを見送りながら、ああそうだ、とようやく自分の名前を思い出す。

「次の方、お待たせしました」

居間、私は斑木アスカという漫画家だ。

本作は、現代の生きづらさに焦点を当てた作品だと思います。

父の遺品整理のために実家に帰ってきた主人公が、家族との辛い記憶や恋人との関係等にもまれ、生きづらい現実をもがくように、それでも1歩ずつ確かめるように進みます。

読み進めながら、自分と重なる部分もたくさんあって、何度か手が止まりました。

おススメポイントは、彩瀬まるさんの繊細な文体で描かれた、現代の生きづらい世界でしょう。

家族や恋人と向き合う、向き合って受け入れる、受け入れて前に進むことは、簡単ではありませんが、誰にでも訪れることなのではないでしょうか。

生きづらい今を抜け出すヒントが欲しいと思っている方日、ぜひ、一読してみてはいかがでしょうか?

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