『行方』春口裕子 著

涙がこぼれる

公園から忽然と姿を消した三歳の琴美。
両親は必死に捜すが、一向に見つからない。

22年後。

自堕落な生活を送る幸子のもとに、一通の手紙が届く。
差出人は、消息不明の妹を捜し続けている男だった。

同じ頃、浜名湖畔で父親の誠司とペンションを営んでいる楓。
ある日を境に、楓は誠司に対して不信感を抱く。
父は何か秘密を抱えて生きているのではないか。

交わるはずのなかった人生が交錯したとき、浮かび上がる真実。

1992年11月。

あの子がいない。
どこにいるのか、どこに行ったのか。

だだっ広い夜の公園で、懐中電灯の明かりだけを頼りに、山口妙子はただひたすら歩いていた。
今夜に限って月明りはなく、外灯は切れかけて仄暗く明滅している。

今すべきことを……次向かう場所を……考えなければならないのに、頭の中に霧が立ち込めて思考が定まらず、足元もふわふわとおぼつかない。
なにか夢の中にいるようなのだ。
辺り一面、漆黒の闇に塗りつぶされた悪い夢。

自分も塗り込められそうな気がして、妙子はあわてて懐中電灯を向けた。
あちこちに光をぶつけて闇を押し戻しながら進むと、行く手に巨大なゾウの遊具が浮かび上がった。
鼻の部分が滑り台になっている、子供たちに人気の遊具だ。

あの子も好きで、つい昨日も夢中で遊んでいた。

おそらくは今日も。

冒頭で起きる子どもの失踪事件。
ヒントはそれなりに散りばめられてるのに、あと一息でなかなか繋がりません。

いっしょに遊んでいた同じ保育園の恋文。
しかし、何も覚えてないしわからないと言う。

二人に付き添っていた恋文の母の朱里。
不可解な言動をしつつも、多くを語らない。

過ぎていく時間。
作り込まれた嘘。
語られない事実。

保身に走る大人たちにより、事件は次第に深みにはまっていきます。

オススメポイントは、繋がりそうでなかなかつながらない捜査状況と、その足を引っ張る大人たちの見栄や保身、振り回される被害者家族の心情の描かれ方でしょう。

22年後に事件は展開を見せますが、大人たちの嘘、隠された事実がわかりだすと、なかなかツラいお話でした。

加害者側としても被害者側としても、誰にでも起こりうるお話。

大切なものは見栄や世間体ではないことを再認識したい方、ぜひ、一読してみてはいかがでしょうか。

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