『自分なくしの旅』みうらじゅん 著

涙がこぼれる

美術予備校へと通う純の前に、”東てる美”に似た美奈が現れた。
即、恋に落ちた純は、童貞を捨てて、覚えたてのセックスにのめり込んでいく。
だが、受験を前にして、親の愛情は重くのしかかり、友人たちとの距離は広がり、すべてが混乱のるつぼと化す……。


自分を見失った果てには一体、何があるのか!?

美大を目指し、京都から上京することを決めた、浪人生の乾純(いぬいじゅん)。

旅立ちの朝、僕は白のスーツ姿で京都駅のプラットホームに立っていた。
裾広がりのパンタロンに、5cm以上あるヒールの革靴(これも白)。
僕のコンプレックスは、あと1cm足りないところだ。

「イヌ、今日おまえ、めっちゃ背高いやんけ!」
「そのスーツ、『シクラメンのかほり』の布施明ちゅう感じやな」

高校時代の友だち三人が、口々に僕の変化を笑う。

「またいつか会おうぜ」
そんなセリフを一言残し、京都を後にしようと思っていた演出は見事に壊れた。

プラットホームに虚しい風が吹く。
会話も途切れ、現実に引き戻されそうになったとき、

「イヌーっ! イヌーっ!」

階段を上ってくる加代子の姿が!

「どーしたん? ジュウーン、そのスーツカッコええやん、布施明みたいやわ」

また言われた。違うんやて、ジョージハリスンを気取ってるんやて……

著者のみうらじゅん氏が、自らの青春時代を赤裸々に描き上げた、自伝的小説です。
受験勉強に集中するはずが、かわいい美奈に恋をし、学校をさぼり、惰性で生きるように。

そんなときじゅんは、ふとしたことで、母親が言わなかった本心を知ることになり……

前半は、上京したバカ息子が欲望のままに生きる姿がありのままに描かれています。

オススメのポイントは、中盤から動き出すじゅんの中の違和感、葛藤。
終盤で、母親の本心を知ったじゅんの姿は、涙なしでは読めませんでした。

ふだん、「ゆるキャラ」とか「マイブーム」とか言って、変わり者のイメージがある著者ですが、ここに至るまでにこんな生き様があるから、この生き様が完成されたのだと思いました!

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