『百花』川村元気 著

涙がこぼれる

「あなたは誰?」
徐々に息子の泉を忘れていく母と、母との思い出を蘇らせていく泉。

ずっとふたりで生きてきた親子には、決して忘れることのできない”事件”があった。
そう、かつて ”母を一度失った” ことを。

記憶が消えゆく中で、泉はずっとしまい込んできた過去に手を伸ばす……

過去から去り行く母と息子の、愛と記憶の物語。

家に帰ると、母がいなかった。
古びた一軒家の玄関で靴を脱ぎながら、葛西泉は母を読んだ。
暗い廊下に声が響き、先に見える居間の電気も消えていた。
二階にもひとけはなく、家の中は冷え切っていて外よりも寒く感じた。
泉はダウンジャケットのファスナーを上げる。温かさを期待して駅から歩いてきたからだが小刻みに震えていた。

生臭いにおいが鼻をつく。
母が夕食の支度をしているはずの台所は空っぽだった。
蛍光灯をつけると、小ぶりなシンクには汚れた食器やグラスが積み重なっていた。
ガスコンロの上には、白菜が残った鍋がそのまま置かれている。

几帳面な母にしては珍しい。
母はこまめに洗い物をする人だった。

幼い頃……

母の百合子とふたりで生きてた泉。
結婚し家を出る日が近づく中、泉は百合子の記憶が次第に消えていくことに気づきます。

記憶が薄れゆく百合子。
しまい込んできた泉の想い。
真実がわからなくなってしまう前に、泉は……


おススメポイントは、自我を失くしつつある百合子から、泉への想いが明らかになるところです。

真実を知ることが果たして幸せなのか、親子だからこそ守るべき、触れずにおくべきことがあるのではないか、そう感じる作品でした。

老いてゆく親と上手に向き合うことができない、そんな方にこそ、ぜひ読んでほしい作品です!

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