『TUGUMI』吉本ばなな 著

胸がときめく

病弱で生意気な美少女つぐみ。

東京の大学へ進学したまりあは、ある夏、つぐみの誘いもあってふるさとである海辺の小さな町に帰省する。
まだ淡い夜のはじまりに、つぐみとまりあは、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会った。

少女から大人へと移りゆく季節の、二度と帰らない一瞬を描いた、切なく透明な物語。

確かにつぐみは、いやな女の子だった。

漁業と観光で静かに回る故郷の町を離れて、私は東京の大学へ進学した。
ここでの毎日もまた、とても楽しい。

私は白河まりあ。聖母の名を持つ。
しかし、心は別に聖母でも何でもない。
それなのになぜか、こちらへ来てから新しくできた友人達は私の性格を描写する時、口をそろえて「寛大ね」とか「冷静だ」とか言うのだ。
私はどちらかと言えば短気の、生身の人間だ。

それにしても、とかなり不思議に思うことがあった。
東京の人々は、雨が降ったの、講義が休みだの、犬がおしっこをしただの、何でもかんでもすぐに怒ってしまう。
私は、確かにちょっとちがうかもしれない。
怒りはやってきた一瞬の後に、波がひいていくように砂地に吸い込まれてしまう。

……多分、私が田舎育ちでのどかだからなのよね、と勝手に納得していたけれど、……

本作のタイトルにもなっているつぐみは、生まれたときから体が弱く、医者も家族も短命を覚悟しました。
そして、家族や周りが彼女をちやほやと甘やかした結果、意地悪で粗野で口が悪く、わがままで甘ったれでずる賢い性格になります。
それに反し?、容姿は色白で細く、長い黒髪の美少女という。
そのあまりに強烈な個性のおかげで、物語にぐんぐんひきこまれました。

おススメポイントは、不器用なつぐみから垣間見える強い優しさと、夜の浜辺の静けさではないかと思います。
つぐみが時折見せる強い優しさは、何も言わずにすべてを受け止めてくれる夜の海と重なるような気がしました。

余談ですが、私のつぐみのイメージは小松菜奈さんでした。

忘れかけていた夏の思い出を振り返ってみたい方、小松菜奈さんがお好きな方は、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

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