『夫の骨』矢木純 著

昨年、夫の孝之が事故死した。
まるで二年前に他界した義母佳子の魂の緒に搦め捕られたように。

血縁のない母を「佳子さん」と呼び、他人行儀な態度を崩さなかった夫。
その遺品を整理するうち、私は小さな桐箱の中に乳児の骨を見つける。

夫の死は本当に事故死だったのか、その骨は誰の子のものなのか。
猜疑心に囚われた私は……

感想

本作は、家族が抱える秘密をテーマにした、9つの短編集です。

表題となっている『夫の骨』は、不慮の事故で突然亡くなってしまった夫の妻が主人公で、蘇る思い出思い出と向き合いながら遺品整理を進めますが、その中に見慣れぬ小箱を見つけます。
開けてみると、そこには乳児の骨が。

二人には子どももなく、夫が過去に婚姻していたという事実もありません。
では、いったい誰の子どもの骨なのか?
しかも、なぜこんなに大切に保管されていたのか?
そもそも、夫はなぜあんなに遠いところに、あの事故現場にいたのか?

次々に湧き上がる疑念。
そしてたどりついた真相は……

たとえ夫婦であっても、親子であっても、秘密にしていることは少なからずあるものです。
その秘密が、自分を守るためのものなのか、誰かを守るためのものなのか、あるいは家族を守るためのものなのか。

知ってしまったら、その秘密を自分が守るべきなのか?
中には、知らないほうが良い秘密もあるということなのかもしれません。

どの話も、決して他人事とは言えず、身近に潜んでいる可能性が十分にあり、フィクションで面白かった!だけでは済ませられない読後感でした。

おすすめポイント

作品の冒頭(抜粋)

その朝、私はいつになく早い時間に目を覚ました。
はっきりとは覚えていないが、夫がいた頃の夢を見ていた気がする。
夫の孝之の低い声、柔和な目を思い起こしながら、胸の底が揺れるような、落ち着かない気持ちで体を起こした。

寝室を出て、廊下の突き当たりの洗面所に向かう。
小用を済ませ、顔を洗い、うがいをした。

十年前、胃癌を患った夫の父が闘病の末に亡くなり、子供のいない私たち夫婦が、この家で義母と同居すると決まった。
夫はリフォーム業者を呼んで、二階にトイレと洗面所を作らせた。
夫の選んだ樹脂製の洗面台は汚れが付きやすく、昔は頻繁に磨き上げたものだが、老眼の進んだ今では、あまり気にならなくなった。

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