『入らずの森』宇佐美まこと 著

陰惨な歴史が残る四国山中の集落・尾峨。

尾峨に赴任した中学教師・金沢には、競技中の事故で陸上を諦めた疵があった。

彼の教え子になった金髪の転校生・杏奈には、田舎を嫌う根深い鬱屈が。

一方、疎外感に苛まれるIターン就農者・松岡は、そんな杏奈を苦々しく見ていた。

一見、無関係な三人。
だが、彼らが平家の落人伝説も残る不入森で交錯したとき、地の底で何かが蠢き始める……。

「何かおかしかったでしょ?あそこ」

粘つく執念、底の見えない恐怖。平家の落人伝説の残る不入森で起こる、逃れられぬ怪異。

感想

本作は、四国の山深い小さな集落を舞台に、因習と人間の欲望が絡み合う恐怖を描いた作品です。

奇しくも同じ時期に集落にやってきた、中学教師の金沢、転校生の杏奈、農家の松岡。
中学教師の金沢は、かつて陸上競技で選手になる夢を抱いていたものの、競技中の事故により悔やみながらも陸上を諦めざるを得なかった苦い過去があります。
転校生の杏奈は、親の都合だけで都会から小さな片田舎の小さな中学校に転向せざるを得なかったことに不満があり、髪を金髪に染め、周りに馴染もうとせずふとり鬱屈した毎日を送ります。
Iターン就農で集落にやってきた松岡は、日々、地元の住人からの疎外感を感じる一方で、自分から馴染もうとしない杏奈に苛立ちをつのらせていきます。

一見なんの接点もなさそうな三人ですが、それぞれ内に秘める鬱屈が高まり、爆発しようかとしたそのとき、あんなに静かだった森が騒ぎ出し……

本作はホラーですが、話が進むにつれて次第に陰をおとしていく展開、不穏な空気、何かが蠢く気配がひしひしと伝わってきて、かなり入り込めました。
あと、読後は森に入ることを躊躇してしまうかもしれません。

おすすめポイント

作品の冒頭(抜粋)

それは常闇から浮かび上がった。
茫洋たる海の中をたゆたうように空ろな仮眠はとぎれ、つながり、また続く。
小さな萌しがそれを揺り動かす。
まぼろしの世界の中のたったひとつの生々しいものー飢餓。

それは飢えていた。
森の底-土の中。
湿潤で寒々しいその場所で、それははっきりと覚醒する。
岸を打つ波のような原初のリズムにしばらく身をまかせた後、それは動き出さす。
模糊とした形象のまま森の底を這い進む。
霧が屍衣のようにそれを覆っている。

やがて明るく開けた場所に到達する。
振動が伝わってきた。
何かが近寄ってくる。
生体が生み出す一定のリズムを感じ取って、それは頭をもたげた。

時がきたのだ。

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