『海の見える理髪店』荻原浩 著

優しく寄り添う

店主の腕に惚れて、有名俳優や政財界の大物が通いつめたという伝説の理髪店。
僕はある想いを胸に、予約を入れて海辺の店を訪れるが……「海の見える理髪店」

独自の美意識を押し付ける画家の母から逃れて十六年。
弟に促されて実家に戻った私が見た母は……「いつか来た道」

人生に訪れる喪失と向き合い、希望を見出す人々を描く6つの物語。

ここに店を移して十五年になります。
なぜこんなところに、とみなさんおっしゃいますが、私は気に入っておりまして。
一人でも切りもりできて、お客さまをお待たせしない店が理想でしたのでね。
なによりほら、この鏡です。
初めての方はたいてい喜んでくださいます。
鏡を置く場所も大きさも、そりゃあもう、工夫しました。

その理髪店は、海辺の小さな町にあった。
駅からバスに乗り、山裾を縫って続く海岸通りのいくつめかの停留所で降りて、進行方向へ数分歩くと、予約を入れた時に教えられたとおり、右手の山側に赤、青、白、三色の円柱看板が見えてくる。

本作は、父と息子、母と娘など、家族の間で大切なものを失くしたまま過ごした者たちが、今と向き合って希望を取り戻す短編集です。

どの主人公も、失ったものを受け止めきれずに過ごした時間が長すぎて、立ち上がるときに苦悩します。
ですが、立ち上がった、向き合った先に待っていたものは、どれも本当は求めていたものだと感じました。
奇しくも同じ時期にこの地にやってきた三人ですが、それぞれ内に秘める鬱屈があります。

おススメポイントは、いずれもタイトルから想像つかないストリー展開でしょう。

個人的には、「いつか来た道」の母と娘の関係は自分と重なる部分があって、入り込みました。

日常の中で失いかけているものを、取り戻すきかっけを探している方、ぜひ、一読してみてはいかがでしょうか?

タイトルとURLをコピーしました