『砂の女』安部公房 著

夢がひろがる

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれてゆく一軒家に閉じ込められる。


考えつく限りの方法で脱出を試みる男。
家を守るために、男を穴の中に引き留めておこうとする女。
そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める人々。


渇きと絶望の中で、男の人間らしさが失われてゆく……

八月のある日、男が一人、行方不明になった。
休暇を利用して、汽車で半日ばかりの海岸へ出掛けたきり、消息をたってしまったのだ。
捜索願も、新聞広告も、すべて無駄におわった。

むろん、人間の失踪は、それほど珍しいことではない。
統計のうえでも、年間数百件からの失踪届が出されているという。
しかも、発見される率は、意外にすくないのだ。
殺人や事故であれば、はっきりとした証拠が残ってくれるし、誘拐のような場合でも、関係者には、一応その動機が明示されるものである。
しかし、そのどちらにも属さないとなると、失踪は、ひどく手掛かりのつかみにくいものになってしまうのだ。

仮にそれを純粋な逃亡と呼ぶとすれば、多くの失踪が、どうやらその純粋な逃亡のケースに該当しているらしいのである。

彼の場合も、手掛かりのなさという点では、例外ではなかった。

主人公は、休暇を利用して趣味の昆虫採集に砂丘を訪れた男。
たどり着いた集落は、行けども行けども砂だらけ。
集落の老人に勧められた宿泊先は砂に埋もれてゆき、男は陥れられたことに気づきますが……

おススメポイントは、なんといっても物語の世界観。
周囲が砂に埋もれた家で、妖艶で陰のある女との生活。
常に様子をうかがいながら、男を逃がすまいとする住民たち。
一見、男が騙されて閉じ込められただけに感じますが、読み進めていくうちに、そこに込められたメッセージのようなものが見えてきます。

安部公房作品の中では比較的読みやすい作品です。

文豪の作品を読んでみたい方、とっかかりとして一読してみてはいかがでしょうか。

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