『全部ゆるせたらいいのに』一木けい 著

優しく寄り添う

夫は毎晩のように泥酔する。
一歳の娘がいるのに、なぜ育児にも自分の健康にも無頓着でいられるのだろう。

ふと、夫に父の姿が重なり不安で叫びそうになる。
酒に溺れ家庭を壊した父だった。

夫は、わたしたちはまだ、立ち直れるだろうか――。

家族だから愛しく、家族だから苦しい。
それでもわたしが夫に、母が父に、父が人生に捨てきれなかった希望。

すべての家族に捧ぐ、切実なる長編小説。

本作は、酒に溺れる夫の姿に、かつて酒で家庭を壊した父の姿が重なり、家族とは、家族愛とはについて深く考えさせられる家族小説です。

家族の中でのリアルな心理描写、良くも悪くも家族とは切れない繋がりで、

愛し合えばより強い絆が生まれるけど、憎しみ合えばその呪詛もまた強いものとなります。
深く愛することの難しさ、報われない想いを受け入れることの難しさ、そして赦すことの難しさ、家族という形の難しさが、ずっしり響く作品でした。

親子の関係をはじめ、家族のありかたに迷いを感じている方、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか?

✐おすすめポイント

飲酒、アルコール依存という現実に対し、さまざまな登場人物ごとの視点で描かれる本作品。互いの気持ちのすれ違いから、本心を伝えられないもどかしさを抱えながら進むストーリー展開。

✐推しの一節

「ごめんね。こんな娘でごめんね。お父さん。」

主人公の千映が、酒浸りの夫の宇太郎を通して、かつて酒に溺れた父への感情に気付いて告げた一言。

憎みあい、避け続けてきた父への本当の感情だけど、伝えるには遅すぎた。
”いつまでもあるとおもうな親と金”とあるように、私自身が長年もがき苦しんできた、親と向き合うということの大切さを教えてくれました。

浴槽でリボンのようにゆらめく紅色を見た時、絶望の余り皮膚のどこかから血がにじみ出たのかと本気で思った。
それほど腹を立てていた。

宇太郎がまた約束を破った。
電話もメールもしないで呑みに行った。
上司や取引先に人と一緒にいるにしても、トイレくらい立つはずだ。
そのときにたった一行、ごはんは要りませんとメールを送れないものなのだろうか。
ちゃんと連絡すると誓ったばかりなのに、宇太郎は嘘つきだ。
もう宇太郎を信じることなんてできない。

湯船の中に手を伸ばすと紅色は溶けて消えた。

宇太郎は毎晩のように呑みに行く。
そして正体をなくして帰宅する。
わたしは疲れ果ててひとりになりたくても、恵が夜泣きして鼓膜が破れそうなほど絶叫しても、とつぜんマーライオンのように嘔吐してきても、とびひ対応に疲弊して泣きたくなっても、逃げ出すことなどできないのに。

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