『ナラタージュ』島本理生 著

胸がときめく

かつて演劇部にいた泉

大学2年の春、母校の演劇部顧問で、想いを寄せていた葉山先生から電話がかかってきた。
泉は、ときめきとともに、卒業前のある出来事を思い出す。

後輩の舞台の客演を頼まれた泉は、先生への想いを再認識する。

あの日、葉山から告げられた事実。
言葉にできずにしまいこんだ想い。

そして、彼の中にも消せない炎が紛れもなくあることを知った泉は……

大学一年の冬、年が明けてすぐのころに、父の海外転勤が決まった。
父は大学時代にドイツに留学していたこともあり、その経験が買われてベルリンの支社へ転勤の話が来たのだ。

「私はいっしょには行けないよ。大学もまだ三年間あるし、ドイツ語なんてさっぱり分からないし」

「そいうえば、高校生の時は泉、いつも楽しそうだったわね。同じ演劇部だった子たちは今どうしてるの?」
ふと母が尋ねた。

「みんな大学に通ってるよ。ほとんど会うことはないけど」

母は相槌を打ってから、ふいに思い出したように続けた。
「顧問の葉山先生も、まだいるの?あんたは一時期あの先生の話ばっかりしてたわね」

気づいたときには恋に落ちていた葉山と泉。

互いを想いながらも、教師と生徒という立場と年齢差という理由から、葉山は泉を遠ざけます。
そこには、泉を遠ざけなければならない過去が。

その過去を赦せず、ひとりで抱え込む葉山の不器用さは、もどかしくもあり、だけどわからなくもなくて、葛藤がひしひしと伝わってきました。

おススメポイントは、再燃する泉の想いと、それを素直に受け止められない葉山の距離感、そして葉山の過去を知った泉の気持ちの激動でしょう。

大切だからこそ近づいてはいけない、まるでヤマアラシのジレンマのような苦恋。
ふたりが出した答えが幸せだったのか、そうでなかったのか、読者で意見が分かれるかもしれません。

余談で、本作は映画化されており、劇中では泉を有村架純さんが演じていましたが、私の中では新木優子さんでした。

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