『ぼぎわんが、来る』澤村伊智 著

ホラー・ヒトコワ作品

”あれ”が来たら、絶対に答えたり、入れたりしてはいかん―。

幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。
それ以降、秀樹の周囲で起こる部下の原因不明の怪我や不気味な電話などの怪異。

一連の事象は亡き祖父が恐れた”ぼぎわん”という化け物の仕業なのか。

愛する家族を守るため、秀樹は比嘉真琴という女性霊能者を頼るが・・・・・・!?

第22回日本ホラー小説大賞受賞作。

感想

本作は、日常の中に突如として現れた異変から少しずつ日常が蝕まれていくホラー作品です。
だれにでも起こりそうという意味では、とても怖い作品でした。

幸せな毎日を送っていた秀樹を襲った、理解しがたい出来事。

原因も形も何者かもわからないそれはやがて、家族にも牙を向き命さえも危ぶまれることに。

”ぼぎわん”という聞き慣れないもの。
それが想像力を無性に掻き立て、終盤まで一気読みでした。

個人的に好きなホラーのジャンルは土着もの、因習ものなのですが、この作品の中にも少しだけその要素が入っていて、それもあってか恐怖の展開が続くのに、手が止まることなくの一気読み。

ホラー小説大賞で新しい恐怖を体験してみたい方、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか?

✐おすすめポイント

作品の冒頭(抜粋)

第一章 訪問者

「これで大丈夫なんでしょうか――ほ、本当に」
フローリングで滑って転びそうになるのを踏みとどまる。
息ばかりが先走って言葉が 出なくなる。
汗で手がぬめり、スマホを落としそうになるのを慌てて両手で押さえて、私は電話の向こうの彼女に問い質す。

「――妻と、む、娘は」

ただよく通る、落ち着いた声で、彼女は答えた。
「ご家族は大丈夫です。それよりもご自分の心構えを」
私は慌てて身を乗り出して、廊下の向こうの玄関を見た。

白い壁と天井に挟まれた、焦げ茶色の扉。
電気を点けていないので暗いが、記憶が色彩を覚えている。
いつもの扉だ。

分厚い金属と樹脂とガラスの板を見ながら、私は懸命にそう思い込もうとした。

「あまり見ない方がいいですよ」
不意に彼女がそう言った。
私は下手な芝居のようにビクリと痙攣してしまう。

「し、しかし、一体いつ――」
「来ますよ、もうすぐ。まじないの準備は整いましたか?」
私はつい先ほど、 彼女が電話口で言った指示を脳内で思い返す。

窓やベランダの鍵をかけ、カーテンも全て閉めた。
台所の包丁をまとめて布で包んで縛り、押入れの奥に隠した。

タオルを巻いた金槌で、家中の鏡を割った。
あるだけの茶碗をリビングの床に並べ、水を張り、塩を一つまみずつ振り入れた。

あとは……あとは・・・・・・。
「玄関の鍵を開けるんですね……?」
私は念を押して訊く。

「そうです」
彼女は今までと全く変わらない、冷静な口調で答えた。
「ですが・・・・・・あれは」
私は抵抗を示した。
「あれは、この家に入って来ようとしているのでは?」
「そうですよ田原さん。あなたに会いたがっている。何十年も前から、ずっと。だから招き入れるんです。」

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