『冬雷』遠田潤子 著

大阪で鷹匠として働く夏目代助の元に訃報が届く。
12年前に行方不明となった幼い義弟・翔一郎が、遺体で発見されたと。

孤児だった代助は、因習が残る港町の名家・千田家に迎えられ、跡継ぎとして暮らしていたが、義弟の失踪が原因で、恋人も家族も失い、町を出て行くことになったのだ。

葬儀に出ようと町に戻った代助は、人々の冷たい仕打ちに耐えながら事件の真相を探るが・・・・・・。

”事件で全てを失った青年が辿りついた、悲劇の真相”

第1回 未来屋小説大賞受賞作

感想

本作は因習の残る小さな港町で、無実の罪を着せられた青年が真相を探るミステリに近い作品で、圧倒的なストーリーと重厚は世界観にすっかり引き込まれました。

鷹匠として生きることを決めている代助。
ある日届いた葬儀の知らせから、物語が始まります。
大切なものを奪われ、二度と戻ることはないと固く誓っていた、忌まわしい港町。
しかし、葬儀に出ようと再訪したことで、代助は恐ろしい真実と向き合うことになります。

舞台の設定。
人物の性格や背景。
相関関係と展開。
とにかく全てがしっかりしていて、読む手がとまらずに一気読みです。

大切なもの、守りたいものの優先順位はひとそれぞれ。
それは他人には理解し難くとも、そこに至る背景や経緯があるからこそなのでしょう。

自分が代助だったら守れるか?
自分が真琴だったら?
千田雄一郎だったら?

毎度ながら、真琴がいい子過ぎて好きになりました。

遠田潤子さんの重厚感のある世界に浸りながら慟哭してみたい方、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

おすすめポイント

作品の冒頭(抜粋)

夏目代助さま

これまでストーカーしてごめんなさい。
いっぱい迷惑をかけてごめんなさい。
ゆるしてください。
ごめんなさい。

遺書だからもっとちゃんと書こうと思うけど、あたし、やっぱりバカみたいです。
むずかしいことなんか書けない。
読みにくくてごめんなさい。

今さら言いわけしてみっともないけど、あたし、本当に悪いことをしたと思ってます。
でも、ひとつだけ、代助さんに信じてもらいたいことがあります。
あたしは本当に代助さんのことが好きでした。

なのに、ひどいことをしました。
つぐないをしようと思って、ずっとがんばったけど、やっぱりダメでした。

代助さんはおぼえていないと思うけど、あたしはおぼえてます。
魚ノ宮町であったことは今でも全部、どんな小さなことでもおぼえてます。
忘れることなんてできない。

あれは、あたしが中学1年生のとき。
ちょっと風の冷たい日でした。
冬の大祭が近づいて神社で神楽の練習が始まったんです。
あたしは「浦安の舞」に選ばれたけど、うまくできなくてみんなの足を引っぱってばかりでした。

代助さんは真琴さんとならんで、あの氷室の前に立ってました。
代助さんはまだ新しい鷹匠の服を着て、まじめな顔をしてました。

落ち込んでいるあたしに気がつくと・・・・・・

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