『自分なくしの旅』みうらじゅん 著

美大を目指し、京都から上京することを決めた、浪人生の乾純(いぬいじゅん)。
意外とまじめに美術予備校へと通う純だったが、ある日、目の前に”東てる美”に似た美奈が現れた。

即、恋に落ちた純は、童貞を捨てて、覚えたてのセックスにのめり込んでいく。
日に日に堕落していく生活。
このままで良いのか!?という葛藤。
受験を前にして、親の愛情は重くのしかかり、友人たちとの距離は広がり、すべてが混乱のるつぼと化す……。
自分を見失った果てには一体、何があるのか!?

笑いの中に抑えきれない涙あり、そんなみうらじゅんの自伝的小説。

感想

著者のみうらじゅん氏が、自らの青春時代を赤裸々に描き上げた、自伝的小説です。

お調子者の純は、美大を目指すべく京都から上京しますが、まじめにがんばろうと決めていた束の間、”東てる美”に似たかわいいかわいい美奈が現れ、あっという間に恋に落ちます。
受験勉強に集中するはずが、来る日も来る日も美奈このとばかり考えてしまう純。
それもそのはず、ずっとこじらせていた童貞を卒業させてもらったから(きっと誰しも経験したはず?)

次第に生活は堕落し始め、あんなにがんばろうと決めていた学校までもさぼるようになります。
久しぶりに再会した旧友ともうまくいかず、実家の母親にも嘘をつく。

そんなとき純は、ふとしたことで、母親が今までずっと言わなかった本心を知ることになり……

前半は、上京したバカ息子が欲望のままに生きる姿がありのままに描かれていますが、中盤から終盤にかけては涙なしでは読み進められないくらい、すごく沁みる展開になっています。

ふだん、「ゆるキャラ」とか「マイブーム」とか言って、変わり者のイメージがある著者ですが、ここに至るまでにこんな生き様があるから、この生き様が完成されたのだと思いました。

ふがいない自分と向き合うきっかけがほしい方、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか?

おすすめポイント

✐推しの一節

夢を実現すべく上京した純が、目の前の欲望と現実に飲み込まれ惰性で生きてく中で、つぶやいたひとこと。
けっきょく、欲望に従うと決めるのも自分、抗って勉強すると決めるのも自分
美奈との甘い生活と仕送りの楽な生活は、純にとって与えれた現実でしかなく、それをどう活かすのかを決めるのは自分だから、自分が変わらない限り何も変わらないということです。

作品の冒頭(抜粋)

美大を目指し、京都から上京することを決めた、浪人生の乾純(いぬいじゅん)。

旅立ちの朝、僕は白のスーツ姿で京都駅のプラットホームに立っていた。
裾広がりのパンタロンに、5cm以上あるヒールの革靴(これも白)。
僕のコンプレックスは、あと1cm足りないところだ。

「イヌ、今日おまえ、めっちゃ背高いやんけ!」
「そのスーツ、『シクラメンのかほり』の布施明ちゅう感じやな」

高校時代の友だち三人が、口々に僕の変化を笑う。

「またいつか会おうぜ」
そんなセリフを一言残し、京都を後にしようと思っていた演出は見事に壊れた。

プラットホームに虚しい風が吹く。
会話も途切れ、現実に引き戻されそうになったとき、

「イヌーっ! イヌーっ!」

階段を上ってくる加代子の姿が!

「どーしたん? ジュウーン、そのスーツカッコええやん、布施明みたいやわ」

また言われた。違うんやて、ジョージハリスンを気取ってるんやて……

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