1993年9月2日未明、11歳のせれなは恋に落ちた。
テレビ番組で偶然見かけた伝説のロックスター・リアンに。
母に捨てられ、父から性虐待を受けているせれなにとって、その愛しい人は唯一の生きる理由となった。
彼女は苦しみのたび、リアンとの妄想世界にトランスする。
甘美な夢と凄惨な現実。
その境界線は次第に曖昧になっていき―。
”性虐待に苦しむ少女の、自らの救済の物語”
第44回 すばる文学賞受賞作
感想
本作は、父親から繰り返される性的虐待に生きる希望をなくした少女が、唯一の生きる希望である”推し”を心の支えにして、苦しみもがきながら救いを求める作品です。
なぜだか無償に気になって、書店でひとめぼれして手に取った作品でしたが、かわいい表紙の絵とは裏腹に、主人公の少女せれなの壮絶な生き様、推しにかける情熱に圧倒されました。
両親から見捨てられた悲惨な境遇のせれなが見つけた、”リアンとの妄想”というたったひとつだけの生きる歓び。
生きるのは辛いし苦しいけれど、リアンがいればがんばって生きようと思える、そう誓うせれなですが、次第にリアンとの妄想世界と現実世界の境界があいまいになってきて……
現実逃避したところで現実世界の苦しみが消えるわけではないのですが、もしかしたらせれなはそのことに気づいていたのだろうか、そう思うととてもやるせない気持ちになりました。
救いを求めるかたちは人それぞれですが、私はせれなは救われたのだと信じたいです。
生きる希望を見いだせずにもがいている方、ぜひとも一読して自身の生きる希望につなげてみてはいかがでしょうか。
こんな人にオススメ
不遇の主人公の純粋な愛を感じたい!
小公女セーラのような作品が読みたい!


