フリーライターの大塚文乃は注目の画家、荒木一夫のルポを書くため、個展を訪ねた。
ダムに沈んだ荒木の故郷、小楷町を再現した絵の前に立った時、いるはずのない少女が絵の中に現れ、文乃は気を失ってしまう。
後日、小楷町の歴史を調べるうちに、「ツキノネ」と呼ばれる土着信仰の神の存在を知るが、その名はある老夫婦の惨殺現場で発見された少女と同じものだった・・・・・・。
感想
本作は、土着信仰の恐怖が動画配信という媒体を通して拡散する、純ホラー作品です。
記憶障害に悩まされる画家、荒木一夫。
そして、今はなき荒木の故郷の小楷町。
その取材に訪れたフリーライターの文乃は、荒木の代表作『小楷分岐』と対峙したとき、予想だにしなかった怪異に遭遇します。
やがて、小楷の歴史をたどりだした文乃がたどり着いた土着神「ツキノネ」
そして、同じ「ツキノネ」を名乗る謎の動画配信者の存在。
物語の始まりは、そこまで恐怖を感じない小さなボタンの掛け違いのような出来事ですが、次第に土着信仰の色が濃くなってくると、一気に怖さがあふれてきます。
失われた町で、失われた記憶の中に、失くしてはならないものがあったとき、その想いはとてつもなく強いものに化けるのだと、震えながら読みました。
土着信仰をベースにしたホラー作品が好きな方、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか?
✐おすすめポイント
土着信仰からうまれた強い想いが具現化し、少しずつ平穏な日常を蝕んでいくところ。
作品の冒頭(抜粋)
君は僕と同じだ。
自宅から二時間以上かけて漕いできた自転車を、新興住宅街の一角にある一軒家の前に停めると、日高勇気はスレート葺きの屋根を見上げた。
もう何日も周辺の下調べを続けてきた。きっと「ツキノネ」の元に辿り着いたのは、僕が最初だ。
ヘッドライトのように頭に装着したウェアラブルカメラの位置を直し、日高はスマー トホンを取り出すと、カメラアプリとのペアリングを確認した。
ブルートゥースでワイヤレス接続されたスマホの画面に、カメラの映像が映し出される。
よし、大丈夫だ。バッテリーとストレージの容量も十分。
これから起こる惨劇の一部始終を、余すところなく配信することができる。
動画サイトにアップしたら、あっという間にアカウントごと削除されてしまうかもしれないが、一度でもネットに流れた動画は、必ず何らかの形で残る。自分がツキノネを助け出したという証拠が残れば、それで良かった。