インターホンの向こう側

これからお話するのは、身の毛もよだつような恐怖体験です。
怖い話が好きな方も苦手な方は、どうぞお進みください……

あれは確か、うだるような暑さが続いた昨年夏のことだったと思う。

仕事から帰った私は、汗を流そうとシャワーを浴びていた。
夕方の会議で告げられた今後の業務方針によると、来週の出張がかなり重要らしい。それなりにしっかり準備して臨まないといけないだろうな。
そんなことを考えながら、タオルで体を拭いていたときだった。

ピンポーン

ふいにインターホンが鳴る。
私はとっさに思いを巡らす。
最近ネットでなにか買ったかな? いや、お気に入りのアーモンドはもう届いている。
それなら、新聞の勧誘とかそんなところだろう。
こういうときは居留守を使うに限る。

私は、物音を立てないようにリビングに向かった。
5分くらいじっと息を潜めていただろうか、もう諦めて帰ったかな、そう思いながら髪を乾かそうとドライヤーに手を伸ばした。

ピンポーン

ウソだろ? まだ玄関前に居るのか!? なかなかしつこいな。
私はドライヤーを諦めて、もう少しだけ静かに時がすぎるのを待つことにした。

ピンポーン

なんてしつこい。
苛立った私は、相手の姿を確認してやろうと、足音を立てないようにしながらインターホンのモニターを覗き込んだ。

そこには誰の姿もなかった。

ようやく諦めて帰ったか。
そう思って、私はリビングに戻ろうとモニターから目をはなしたときだった。

ピンポーン

急いでモニターを確認する。
そこには誰の姿もない。
隠れてる? もしかしたら、友だちが怖がらせようとしてるのか?
だとしたらちょっとタチ悪いな、そう思いながら玄関の扉を開けた。

そこには誰もいなかった。

状況が飲み込めず、しばらく立ち尽くす。
夜も更けた住宅街は、昼間の喧騒とは打って変わって静まり返っている。
生ぬるい風。何者かの気配。

恐怖を打ち消すように、よし!と言って、私は玄関を閉めようとした。

ピンポーン

私が見ている目の前で、無人のインターホンが鳴らされた。
急いで玄関を閉める。
状況がよく飲み込めない。

ピンポーン

6回目。

ピンポーン

ピンポーン

ピンポーン……

先日見た、ホラー映画が頭をよぎる。
こんなことなら見る前にお祓いでもしておけばよかった。

その後もなり続けるインターホン。

恐怖にぶるぶる震えながら、私は確信していた。

間違いない。

インターホンがぶっ壊れている!!

急いで管理会社に電話をすると、こう返答が返ってきた。

「え~ホンジツのエイギョウは~シュウリョウいたしました~」

その後、管理会社から依頼を受けた修理業者から話を聴くことに成功した。
どうやらかなり古いタイプのインターホンらしく、配線が切れていた、と。

そして、私自身重要なことを忘れていた。
隠れてインターホンを押すような友だちは、一人もいないということを。
そして、修理したところで押してくれる人がいないということを。

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