『行方』春口裕子 著

公園から忽然と姿を消した三歳の琴美。
両親は必死に捜すが、一向に見つからない。

22年後。

自堕落な生活を送る幸子のもとに、一通の手紙が届く。
差出人は、消息不明の妹を捜し続けている男だった。

同じ頃、浜名湖畔で父親の誠司とペンションを営んでいる楓。
ある日を境に、楓は誠司に対して不信感を抱く。
父は何か秘密を抱えて生きているのではないか。

”20年以上の時を経て届いた家族の祈り”

交わるはずのなかった人生が交錯したとき、浮かび上がる真実。

感想

本作は、子どもの失踪事件を通して、大人たちのエゴやプライドに振り回される家族と、人間のおろかさを描いた作品です。

冒頭、保育園の帰りに友だちと遊んでいたはずの三歳の女の子が失踪します。
一緒に遊んでいた、同じ保育園の恋文は何も覚えていないしわからないと証言。
ずっと見ていたはずの恋文の母親は、警察の取り調べに対し曖昧な証言を繰り返す一方。
その態度からは、”我が子ではないから”という態度がありありと伝わってきますが、同時にその背景には、証言できない理由が隠されていました。

そんなこともあって、失踪の手がかりとなるヒントはそれなりに散りばめられてるにもかかわらず、どうしてもあと一息でなかなか真相が見えてきません。

過ぎていく時間。
作り込まれた嘘。
語られない事実。

やがて、この失踪事件は保身に走る大人たちにより、深みにはまっていき……

22年も経った後に事件は展開を見せますが、当時の大人たちの嘘、隠された事実がわかりだすと、なかなかツラいお話でした。

しかし、このような話は物語としてではなく、我が子可愛さあって、そして自分さえ良ければ良いという心情があれば、加害者側としても被害者側としても、誰にでも起こりうるお話だと思いました。

おすすめポイント

作品の冒頭(抜粋)

1992年11月。

あの子がいない。
どこにいるのか、どこに行ったのか。

だだっ広い夜の公園で、懐中電灯の明かりだけを頼りに、山口妙子はただひたすら歩いていた。
今夜に限って月明りはなく、外灯は切れかけて仄暗く明滅している。

今すべきことを……次向かう場所を……考えなければならないのに、頭の中に霧が立ち込めて思考が定まらず、足元もふわふわとおぼつかない。
なにか夢の中にいるようなのだ。
辺り一面、漆黒の闇に塗りつぶされた悪い夢。

自分も塗り込められそうな気がして、妙子はあわてて懐中電灯を向けた。
あちこちに光をぶつけて闇を押し戻しながら進むと、行く手に巨大なゾウの遊具が浮かび上がった。
鼻の部分が滑り台になっている、子供たちに人気の遊具だ。

あの子も好きで、つい昨日も夢中で遊んでいた。

おそらくは今日も。

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