毎日が黄金に輝いていた12歳の夏に出会った、尚と拓という転校生の兄弟。
8月最後の夜、尚は川辺の流木に奇妙な印を残して、忽然と姿を消した。
23年後、刑事となった相馬は、少女失踪事件の現場で同じ印を発見する。
「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」
相馬の胸に蘇る親友の言葉。
あの夏、本当は何が起こっていたのか?
今、何が起ころうとしているのか?
人が犯した罪は、正しく裁かれ、正しく償われるのか?
感想
本作は、少年時代に直面した殺人事件について、大人になった主人公が真相を追い求める中で、失った親友との関係と向き合い、自分自身の過去と向き合う作品です。
主人公である相馬は、刑事事件を捜査する中で奇妙な印を見つけます。
どこかで見たことがあるようなその印。
それはかつて、少年時代を共に過ごした親友が残した印と全く同じものでした。
当時はなんとも思わなかったのですが、今になって突然現れた印。
ただのキズのように簡単ではない、明らかに何かを指し示すような印。
事件の真相を追い求めるうちに、次第に蘇ってくる少年時代の忘れていた記憶。
さらに事件の真相に迫るべくその印を辿るうちに、23年前に隠された真実も次第に明らかになっていき……
大人の友情もそうかもしれませんが、少年時代の友情や約束は、純粋だからこそ特に固く結ばれていたような気がします。
それは時に大切なものを守り通すものであり、触れてはならないものを封印するものであったり。
友情ゆえの判断、約束を、大人になった今、正しいとか間違っているとか簡単に言えるのだろうかと、とても考えさせられました。
”正しさ”とは何か?一度考える意味でも、一読してみてはいかがでしょうか。
✐おすすめポイント
少しずつ過去と現在がリンクしていくところと、親友が残した意味深な言葉の意味、そして印が指し示すことが明らかになるとき、それを読者がどう受け止めるか問われる点。
作品の冒頭(抜粋)
石段坂の降り口に着くと、尚も拓もまだ来ていなかった。
クマゼミが空気を刻むように鳴くのを聞きながら、僕は一番上の段に腰を下ろした。
照りつける朝の陽射しは早くも昼の暑さを予感させた。
辺りを見渡すと、そこここに一昨日の台風の痕跡が残っていた。
家々のアンテナはなぎ倒され、骨だけになったビニール傘の残骸が道端に散らばっている。
石段坂の途中には青々とした葉を茂らせたまま無残に折れたポプラの枝が転がっていた。
僕は、ふと台風の夜の尚のことを思い出して不安になった。
黒いクーペの屋根の上に立った尚の姿が、僕の頭の内側に写真のように貼りついている。
あんな尚を見たのは初めてだった。
あの夜、僕は初めて尚が何かに苦しんでいるんじゃないかと思った。
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