『命売ります』三島由紀夫 著

目覚めたのは病院だった。

まだ生きていた。

危険な目に合ううちに恐怖の念におそわれた。

死にたくないー。

三島由紀夫の考える命とは？

”自殺しそこなった男が辿る、命の意味をめぐる旅”

感想

本作は、人生に絶望しながらも自殺に失敗した主人公の羽二男が、命の意味とはなにか？を探す作品です。

自殺に失敗した羽二男は、一度捨てた命と、新聞広告に大々的に命を売り出したところ、様々な依頼主が現れ、ありとあらゆる危険なことお願いしてきます。
それらはどれもこれも常人には理解し難く、ホントに危険で、命からがら？こなすうちに、次第にこんなことで死にたくないという気持ちが芽生え始める羽二男。

死のうと思っていたはずなのに、死地を超えるたびに湧き上がる生への渇望。
その葛藤の中に、三島由紀夫が読者に伝えたかったことがあるんだと感じました。

三島由紀夫作品の中でも、比較的読みやすく、ユーモアに富んだ世界観は必読、私は展開を求めての一気読みでした。

三島由紀夫に挑戦してみたい方、三島作品を手に取るか迷っている方、手始めに本作品から一読してみてはいかがでしょうか。

✐おすすめポイント

立て続けに起こる理解しがたい要求と、それに伴う羽二男の心境の変化。

作品の冒頭（抜粋）

……羽二男は、目を覚まして、まわりがひどく明るいので、天国にいるのかと思った。
しかし、後頭部にきつい頭痛が残っている。
天国で頭痛がするわけはあるまい。

まず見えたのは、磨ガラスの大きな窓だった。
何も飾りのない窓で、あたりがむやみに白っぽい。

「気が付いたようですよ」
と誰かが言った。
「まあ、これでよかった。人助けをしたと思うと、一日気分がいいですよ」
羽二男は目をあげた。
看護婦と、一人の消防隊の制服を着たずんぐりした男が立っている。

「そのまま、そのまま。まだ乱暴に体を動かしちゃいけません」
と看護婦が彼の肩先を押えた。

羽二男は自分が自殺に失敗したのを知った。